歴史の教科書で触れたローマ帝国。
その強大な軍団が、遥か遠いブリテンの地で謎の消滅を遂げたという史実は、今も多くの人々の想像力を掻き立てます。
もし、その失われた軍団の象徴「ワシ」を巡る壮大な物語が、手に汗握る冒険活劇として現代に蘇ったとしたら——?
映画「第九軍団のワシ」は、単なる古代ローマを舞台にしたアクション映画ではありません。
若き日の傷を抱えながらも、父の名誉と帝国の誇りを取り戻そうとする主人公の姿は、私たちが生きる現代にも通じる普遍的なテーマを映し出します。
「歴史って難しそう…」
と感じている人も大丈夫!
この映画を入り口に、教科書だけでは味わえない、生きた歴史の息吹を感じてみませんか?
この記事では、映画をより深く楽しむための歴史的背景から、知的好奇心を刺激する小ネタまで、余すところなくご紹介します。
さあ、古代ローマの壮大なロマンと、熱き人間ドラマの世界へ、一緒に足を踏み入れてみましょう!

作品概要

タイトル | 第九軍団のワシ |
原題 | The Eagle |
公開年 | 2011年 |
制作国 | イギリス、アメリカ |
時間 | 114分 |
監督 | ケヴィン・マクドナルド |
キャスト | チャニング・テイタム(マーカス役)、ジェイミー・ベル(エスカ役)、ドナルド・サザーランド(伯父アクイラ役)、マーク・ストロング(グアーン役)、タハール・ラヒム(シール王子役) |
作品概要 | 西暦120年、ローマ帝国最強の第九軍団がブリタニア(現在のスコットランド)で消息を絶つ。20年後、指揮官の息子マーカスは、父の名誉を回復するため、奴隷のエスカとともに“黄金のワシ”を探す危険な旅に出る。 |

事前に知っておきたい歴史的背景

舞台は2世紀のブリタニア(今のイギリス)
この物語は、ローマ帝国がブリタニア(現在のイギリス)を支配していた2世紀前半を舞台としています。
なぜなら、当時のローマは広大な領土を治め、その最北端がブリタニアだったからです。
実際、紀元43年にローマはブリタニアへ進出し、現在のイングランド南部から中部にかけて属州として支配を広げていました。
しかし、スコットランドにあたる北部は反ローマ勢力が強く、支配が難航していたのです。
そんな辺境の地、つまり異民族との境界線を舞台にしたストーリーが進行していきます。
ハドリアヌスの長城について
ハドリアヌスの長城は、ローマ帝国の防衛線としてブリタニア北部に築かれた巨大な城壁です。
なぜなら、ローマはスコットランド地方に住む「野蛮人」とされた先住民ピクト人からの侵入を防ぐ必要があったからです。
この長城は122年頃、皇帝ハドリアヌスの命によって建設され、長さ117kmにも及びました。
映画の中では、この長城を越えて「文明」から「未開」の地に足を踏み入れる緊張感が、ストーリーに深みを与えています。
「第九軍団ヒスパナ」失踪事件とは?
映画の中心となる「第九軍団の失踪」は、実際の歴史記録に残る謎の出来事です。
これは、第九軍団ヒスパナがある時期を境に史料から忽然と消えたことによって、多くの仮説やフィクションが生まれたためです。
第九軍団はかのカエサルによって創設された部隊だと考えられています。
紆余曲折を経て、紀元43年にはブリタニア遠征の使命をを帯びて出生し、それ以降イングランド北部のヨーク周辺に駐屯していた記録が残されています。
ただし、それ以降の動向が記録では不明瞭になっていることが様々な憶測を呼んでいます。
この歴史の空白が、本作の物語的な魅力の土台となっています。
ストーリー・あらすじ

物語のあらすじ
映画『第九軍団のワシ』は、失われたローマ軍団の「ワシ」を取り戻すために、若き指揮官マーカスが敵地へ旅立つ物語です。
なぜなら、マーカスは「失踪した父の名誉を回復する」という使命を背負っているからです。
物語冒頭、ブリタニア北部で戦傷を負ったマーカスは退役を余儀なくされます。
かつて父が指揮し、謎の失踪を遂げた第九軍団の汚名をそそぐため、ブリタニア北方の地へ旅立つことを決意します。
命を救ったブリトン人の奴隷エスカと2人で、失われた「ワシ」の行方を追う危険な旅路へ。
最初はただの主従関係でしたが、敵対する部族との遭遇など、困難を乗り越えながら、次第に変化が芽生えてきます。
果たしてマーカスは、「ワシ」を奪還し、父の名誉を回復することができるのでしょうか?
そして、異文化を持つマーカスとエスカの間に芽生える絆の行方は——?
この映画が伝えたいテーマ
本作の根底には、ただの冒険や戦いを超えた、複数の深いテーマが見え隠れします。
それは、名誉・友情・アイデンティティという、現代でも変わらない人間の普遍的な問いに向き合っているからです。
以下では、映画に込められた主要なテーマを3つに分けて見ていきましょう。
名誉とは何か?
マーカスの行動の根底には、「父の名誉を回復したい」という強い思いがあります。
なぜなら、父が率いた第九軍団は「失われた軍団」としてローマ社会から軽蔑され、名誉を失っていたからです。
ローマ社会において、名誉は個人だけでなく、家族や軍団全体の価値を左右する重要なものでした。
マーカスは、父が失った名誉を取り戻すために危険を冒しますが、その過程で彼自身もまた、真の勇気や誇りとは何かを学んでいきます。
異文化理解と友情
この作品では、支配者と被支配者という立場を越えた友情の芽生えが描かれます。
なぜなら、主人公マーカスと、ブリタニア人である奴隷エスカの関係が、旅を通して大きく変化するからです。
主人と奴隷の関係から、互いを支え合う友情へと変わっていく過程は、異文化間の理解と信頼がいかに築かれていくかを示す象徴的な要素となっています。
アイデンティティの模索
本作の登場人物たちは、自らの出自や立場に葛藤しながら、「自分は何者か?」という問いに向き合っています。
なぜなら、マーカスはローマの誇りを持つ一方で、異文化の地で生き延びねばならず、エスカもまた、ローマに家族を奪われた過去を持ちながらローマ人と行動を共にしているからです。
このアイデンティティの揺れは、支配と被支配、文明と未開といった単純な二項対立では語れない、人間の複雑な内面を描いています。
ローマの価値観を強く持つマーカスは、ブリトン人の文化や生き方に触れる中で、これまで当たり前だと思っていた自身の価値観を見つめ直すことになります。
この葛藤と成長の過程は、観る者自身のアイデンティティについて考えるきっかけを与えてくれます。
作品を理解するための小ネタ

「第九軍団」自体がロマンのある歴史設定
この映画の魅力の一つは、「第九軍団の失踪」という 歴史の空白を題材にしている点です。
なぜなら、実際に第九軍団は歴史の記録から突如として姿を消しており、その後の行方を示す確たる証拠がないからです。
実際に記録から姿を消したローマ軍団が存在するという事実は、単なる作り話ではない深みを与えます。
なぜ強力なローマ軍団が忽然と姿を消したのか?
その真相は未だ解明されておらず、様々な憶測や伝説を生み出してきました。
映画は、この歴史の空白を大胆な想像力で埋め、観客を古代のロマンへと誘います。
ローマ人にとってワシはただの旗ではない
劇中で重要な役割を果たす「ワシ(アクィラ)」は、ローマ軍団の象徴であり、 軍団の魂を具現化した存在です。
なぜなら、ワシは軍の結束と誇りの象徴であり、失うことはローマ人にとって「軍団の死」意味するからです。
ローマ軍にとって、「ワシ」を失うことは、現代の軍隊が国旗を奪われる以上の屈辱であり、その軍団の存在意義を揺るがす一大事でした。
主人公マーカスが「ワシ」の奪還に固執するのは、父の名誉回復だけでなく、失われたローマの誇りを取り戻すという強い使命感があるからです。
物語における「ワシ」の重みを理解することで、主人公の行動原理や葛藤がより深く理解できます。
バディ映画としての伝統構造
『第九軍団のワシ』は、 古典的な「バディ映画」の構造を持つ作品でもあります。
その理由は、マーカスとエスカ、性格も背景も正反対の二人が、危険な旅を通して徐々に絆を築いていく、という王道パターンが踏襲されているからです。
最初は主人と奴隷という明確な上下関係にあった二人が、過酷な旅を通して互いの人間性に触れ、信頼関係を築いていく展開は、多くのバディ映画に見られるパターンです。
文化や言語の壁を乗り越え、次第に言葉を超えたコミュニケーションが可能になっていく二人の姿は、友情の普遍的な力を示しています。
作品の評価・口コミ

レビューサイト 評価 | 総合評価 | 59.90 | |
国内 レビュー サイト | 国内総合評価 | 3.40 | |
Filmarks | 3.4 | ||
Yahoo!映画 | 3.6 | ||
映画.com | 3.2 | ||
海外 レビュー サイト | 海外総合評価 | 51.80 | |
IMDb | 6.2 | ||
METASCORE Metacritic | 55 | ||
TOMATOMETER RottenTomatoes | 6.2 | ||
TOMATOMETER RottenTomatoes | 39 | ||
Audience Score RottenTomatoes | 41 |
これらのレビューサイトの評価をまとめてみると、歴史的な背景やロケーションのリアリズムを評価する声が多いです。
ただし、主演のチャニング・テイタムの演技に対しては賛否が分かれ、ストーリー展開や演出がやや平坦であるとの指摘も見られます。
また、海外レビューサイトでの評価は低めですが、国内レビューサイトでの評価はまずまずで、日本人ウケする作品とも考えられます。
監督・脚本・キャスト

監督|ケヴィン・マクドナルド
本作の監督ケヴィン・マクドナルドは、 ドキュメンタリー映画の世界からキャリアをスタートさせた映像作家です。
なぜなら、彼の代表作『運命を分けたザイル』は、実話をもとにした山岳ドキュメンタリー映画で高い評価を受けており、そのリアル志向が『第九軍団のワシ』にも反映されているからです。
このような背景から、歴史映画でありながら過剰な演出を排した、静かでリアルな作風が本作のトーンを形作っています。
一方で、『ラストキング・オブ・スコットランド』のような劇映画でも高い評価を得ており、俳優の演技を引き出す手腕にも定評があります。
本作においても、チャニング・テイタムやジェイミー・ベルといった主演俳優の魅力を最大限に引き出しています。
主演|チャニング・テイタム(マーカス役)
チャニング・テイタムはアクションやダンス映画で知られる俳優ですが、本作では 抑えた演技で「内に葛藤を抱えるローマ人」を演じ切っています。
なぜなら、マーカスというキャラクターは戦士であると同時に、精神的な重圧や名誉のジレンマを抱える人物だからです。
その硬派な演技は、これまでのイメージを覆し、役者としての幅広さを印象づけました。
共演|ジェイミー・ベル(エスカ役)
エスカ役を務めたジェイミー・ベルは、 映画『リトル・ダンサー』で一躍有名になった実力派俳優です。
なぜなら、若くして演技力を評価されて以降、様々なジャンルの映画に出演し、キャリアを着実に築いてきたからです。
本作では言葉少なくも、その表情や動きでエスカの複雑な内面や、マーカスとの間に育まれる絆を表現しています。
特に、異なる言語を話す二人のコミュニケーションは、彼の演技力によって説得力を持って描かれています。
まとめ

まとめ
- 古代ローマの軍団「第九軍団」の失踪という史実をベースに、フィクションを交えた歴史ロマンが展開される映画
- 舞台は2世紀のブリタニアで、ローマ帝国の支配と抵抗、名誉や忠誠をめぐる人間ドラマが描かれる
- 「ワシ」はローマ軍の魂とされ、象徴的な存在として主人公の動機や物語全体の軸を担う
- 対照的な背景を持つ二人の旅路を通して、異文化理解と友情、アイデンティティの模索が描かれる
- リアルな描写と静かな演出で知られる監督や、実力派キャスト陣の熱演も見どころの一つ
歴史を題材にした映画は、ただの娯楽ではなく、過去の人々の価値観や葛藤を通して、今の私たちの生き方を見つめ直すきっかけにもなります。
まだ見ていない人は、『第九軍団のワシ』をぜひ一度観てみてください。
その体験が、教科書では味わえない歴史の奥深さや、人間の本質に気づく第一歩になるかもしれません。
知識が深まることで、ニュースや旅先の風景、日々の会話にも新たな視点が加わり、日常がもっと豊かに感じられるはずです。
さあ、あなたも物語の扉を開き、過去と今をつなぐ知的な冒険へ出かけてみませんか?

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