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【Netflix】『キング』レビュー|ヘンリー5世の苦悩と勝利を描く歴史劇

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今回ご紹介するのは、Netflixオリジナル映画『キング』。

15世紀のイングランドを舞台に、若き王ヘンリー五世が国の命運を背負い、大国フランスとの間で繰り広げられる百年戦争に身を投じていく姿を描いた作品です。

「え、百年戦争?なんか聞いたことあるけどよく知らない…」

と思った人も大丈夫!


この記事では、映画をより深く楽しむための歴史的背景から、作品に込められたテーマ、知っておくと面白い小ネタまで、高校世界史レベルの知識で分かりやすく解説します。

この映画を観れば、歴史の面白さに気づき、教養を身につけることができるはず。

さあ、『キング』の世界を一緒に覗いてみましょう!

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目次

作品概要

タイトルキング
原題The King
公開年2019年
制作国オーストラリア、アメリカ
時間140分
監督デヴィッド・ミショッド
キャストティモテ・シャラメ、ジョエル・エドガートン、ロバート・パティンソン、ベン・メンデルソーン、ショーン・ハリス、リリー=ローズ・デップ、トム・グリン=カーニー、トーマシン・マッケンジー
作品概要ウィリアム・シェイクスピアの戯曲「ヘンリー四世」や「ヘンリー五世」に着想を得た歴史ドラマ。放蕩生活を送っていたハル王子が、父王の死をきっかけにヘンリー五世として即位し、宮廷内外の争いや戦争を乗り越えながら成長していく姿を描く。

事前に知っておきたい歴史的背景

舞台は15世紀初頭のイングランドとフランス

物語の舞台である15世紀初頭は、イングランドとフランスが百年戦争の真っただ中にあり、両国ともに内政不安と権力闘争を抱えていました。

この時代の背景を押さえることで、なぜ若き王ヘンリー5世がフランスに攻め込んだのか、その動機や意義がより深く理解できるからです。

以下に、当時のイギリス・フランス・百年戦争の状況を整理します。


イギリス:王権の正当性が弱く国内で反乱が相次ぐ

当時のイングランド王朝はランカスター朝

ヘンリー5世の父・ヘンリー4世は、正統な継承ではなく力によって王位を奪い取りました。

そのため、王家の正当性に対する不安が根強くあり、国内は貴族間の不満や反乱の火種を多く抱えていました。

新王ヘンリー5世にとって、フランスへの遠征は国内の結束を高め、自らの王位の正統性を証明する手段でもあったのです。

フランス:王の精神疾患と国を二分する内戦で混乱の渦中

フランスでは、シャルル6世が国王として君臨していましたが、重い精神疾患により国政を担えない状況でした。

王権の空白をめぐって、王族内のブルゴーニュ派アルマニャック派(ドーファン支持派)が内戦状態に突入。

政治的にも軍事的にも分裂し、国外からの攻撃に対して非常に脆弱な状態にありました。

百年戦争:実質的には長期停戦状態にあった

百年戦争(1337〜1453年)は、イングランド王がフランス王位を主張したことに端を発する戦争です。

やがて王族だけでなく貴族や商人の思惑も飲み込んで、お互いの領土問題にも発展、戦争が長期化していきます。

黒死病(ペスト)の大流行などにより、お互いに大規模な戦闘行為は行われていない状態にありました。

しかし、ヘンリー5世の即位後に再び戦火が再燃します。


ランカスター朝とは?

ランカスター朝は、イングランドの王位を巡る激しい権力闘争の中で誕生し、約60年続いた後、内戦によって滅亡した王朝です。

ヘンリー4世がプランタジネット朝の王リチャード2世から王位を奪い取ったことにより、新たな王朝として始まりました。

しかしその王位継承には常に「正当性の脆さ」が付きまとっていました。

以下にその起こりから終わりまでの流れを詳しく見ていきましょう。

①ランカスター朝の始まり

ランカスター朝の創始者は、ヘンリー5世の父・ヘンリー4世(在位:1399〜1413)です。

彼はプランタジネット朝の国王リチャード2世のいとこで、ランカスター公爵家の出身でした。

1399年、リチャード2世が王権を乱用して諸侯の支持を失ったことに乗じて、ヘンリーは武力をもって王を退位させ、自ら王位に就きました。

この即位は「王の血統による継承」という当時の価値観から見るとやや異質で、「簒奪(さんだつ)」に近い王位継承とされました。

②ヘンリー5世とランカスター朝の最盛期

ヘンリー4世の子であるヘンリー5世(在位:1413〜1422)は、百年戦争での勝利を通じてイギリス王朝の威信を大きく高めました。

特に1415年のアジャンクールの戦いでの劇的な勝利により、フランスとの講和条約(トロワ条約)では、フランス王位の継承者として認められるほどの外交的成果を収めました。

この時期がランカスター朝の最盛期といえます。

③ランカスター朝の衰退と滅亡

ヘンリー5世の死後、その子ヘンリー6世(在位:1422〜1461、1470〜1471)は幼少で即位し、内政・軍政ともに不安定な治世が続きました。

フランスとの戦争で最終的に敗北し、領土を失います。

これによってヘンリー6世は精神に不調をきたしてしまいます。

それをきっかけにして国内では諸侯の対立が激化し、薔薇戦争(ばらせんそう)が勃発。

これは、ランカスター家(赤バラ)ヨーク家(白バラ)による王位を巡る内戦で、最終的にランカスター家は敗北してしまいます。

1471年、テュークスベリーの戦いでランカスター派の主力が壊滅し、ヘンリー6世もロンドン塔で暗殺されてしまいます。

こうしてランカスター朝は完全に滅亡し、代わってヨーク朝が成立しました。

歴史的意義

ランカスター朝はイングランド中世後期の王権の不安定さ、貴族同士の権力闘争、王位の正当性問題を象徴する存在です。

この王朝の誕生と終焉のドラマを知っておくことで、映画『キング』の政治的背景や登場人物たちの行動により深く共感できるようになります。


ヘンリー5世とはどんな人物?

主人公ヘンリー5世は、若くしてイングランド王位を継承し、カリスマ性と強いリーダーシップを発揮した人物として描かれています。

映画では、放蕩な生活を送っていた青年ハルが、父王の崩御により予期せず王位を継承し、国内外の困難な問題に立ち向かう姿が描かれます。

史実のヘンリー5世(在位:1413年 – 1422年)は、その軍事的な才能と指導力で名を馳せました。

即位当初こそ国内の反乱に苦慮しましたが、その後フランスへの遠征を主導し、アジャンクールの戦いで歴史的な大勝利を収めたからです。

映画では、彼の若さゆえの葛藤や成長も描かれており、単なる英雄としてだけでなく、人間味あふれる君主としての側面も垣間見えます。

実際にアジャンクールの戦いがこの映画でも大きな山場となっています。


アジャンクールの戦いは「奇跡の勝利」

アジャンクールの戦い(1415年)は、兵力で劣るイングランド軍がフランス軍に大勝した、まさに「奇跡の勝利」ともいえる歴史的な戦闘です。

地形・戦術・兵種の違いが大きく作用し、フランス軍の優勢を打ち消したからです。

この勝利によって、イングランドが圧倒的な有利な状態になり、その後の百年戦争の展開に大きな影響を与えました。

映画でも描かれるこの戦いには、いくつもの勝因と戦況を左右する要素がありました。


イギリス軍が少数で勝てた最大の理由は「戦術と地形」

イングランド軍は約6,000人に対し、フランス軍は2〜3倍の大軍(推定12,000〜15,000)。

にもかかわらず勝利したのは、戦場となった狭い湿地帯の地形を味方につけたからです。

ヘンリー5世は、木の杭を打ち込んで敵の騎兵の突撃を封じ、長弓兵(ロングボウ部隊)を効果的に配置しました。

泥だらけの地面で機動力を失ったフランス軍は、身動きが取れずに大混乱に陥ります。


ロングボウを警戒して重装備のフランス軍

これまでの戦いの中で、フランス軍はロングボウの弓兵に手こずっていました。

矢を警戒して、歩兵も騎士も重装備で戦いに臨みます。

地面のぬかるみと木の杭によって重装騎兵の動きが止められてしまうと、イギリス軍の思うつぼでした。

映画でも描かれている通り、フランス軍の重装備があだとなってしまったのです。


ストーリー・あらすじ

あらすじ

物語は、放蕩息子だったハルが王に即位し、フランスとの戦争を決断するまでの流れを中心に描かれます。

映画は、ハルが父王ヘンリー4世との確執や、自身の過去の行いに葛藤する姿から始まります。

予期せぬ王位継承後、国内の反乱やフランスからの挑発を受け、苦渋の決断としてフランスへの遠征を決意。

ハルの変化を軸に物語は進んでいきます。

当初の戸惑いから、次第に王としての自覚を持ち、ヘンリー5世としてリーダーシップを発揮していくまでに。

フランス遠征では、数々の困難に直面しながらも、アジャンクールの戦いで奇跡的な勝利を収めます。

しかし、その勝利の裏で多くの犠牲を払い、戦争の虚しさを痛感することに。

最終的に、彼は一人の王として、そして人間として、新たな一歩を踏み出すことが示唆されます。


作品が描くテーマ

この作品の大きなテーマは、「真のリーダーとは何か?」という問いです。

主人公ヘンリー5世は、王位を継ぐ前までは政治から距離を置いていた人物ですが、王となった瞬間から責任と孤独に向き合うことになります。

作品の中では、友人や部下の裏切り、家臣の処刑、戦争の決断など、「正義」や「信頼」とは何かを問われる場面が多く登場します。

こうした葛藤を通じて、ヘンリーは「自分で考え、自分で選ぶ」王として成長していきます。

周囲の思惑が渦巻く中で、ハルが誰を信じ、どのように孤独な決断を下していくのかは、権力と孤独というテーマを浮き彫りにしています。


作品を理解するための小ネタ

シェイクスピア劇へのオマージュ

『キング』はシェイクスピア「ヘンリー四世」「ヘンリー五世」を下敷きにしています。

ストーリー展開や登場人物の関係性など、原作のエッセンスを取り入れながら、現代的に再解釈されているからです。

たとえば、友人フォルスタッフはシェイクスピア作品ではコミカルな存在ですが、本作では誠実な戦士として描かれており、作者たちの意図的なアレンジが見られます。


ラストのフランス王女のセリフに注目

映画のラストで、フランス王女が語る一言が全編の「真意」を示しています。

詳しくはネタバレになるので触れませんが、そのセリフは、ヘンリー5世が信じていた「正義」を大きく揺るがすような衝撃の内容でした。

王女の言葉は、ヘンリーだけでなく、観る側にも深く問いかけてきます。

このラストで一気に作品全体の印象が変わり、「王になるとは?」「正義とは?」といったテーマがより立体的に感じられます。


史実と異なる点

映画『キング』は史実をもとにした作品ですが、物語をよりドラマチックにするために大胆なアレンジも加えられています。

ここでは、特に重要な4つの相違点を紹介します。


弟トマスの描写は改変されている

弟であるトマスへの王位継承、トマスの戦死によりヘンリー5世が継いだとする描写は事実と異なります。

ハル王子と父であるヘンリー4世が対立していたのは史実通りですが、実際には父ヘンリー4世から王位を継承しています。

トマスは実際にはヘンリー5世の即位後も生存しており、フランス本土での別の戦いで戦死しました。

彼は1421年のボージェの戦いで戦死しており、映画のような「兄よりも優遇されて王位を継承した」や「早すぎる戦死」は脚色です。


戦争の動機づけが異なる

フランスの和平使節団による暗殺計画という開戦理由は史実とは異なります。

実際には、ヘンリー5世が領土の割譲と、フランス王位を主張したことが開戦の主な原因だからです。

映画でも取り上げられている通り、百年戦争はしばらく停戦状況にありました。

即位以来の内政問題が落ち着いたのち、内乱状態にあったフランスに対して領土と王位を要求し始めます。

映画のような具体的な和平交渉の裏切りが直接的な宣戦布告の要因となったという史実は確認されていません。


フランス王太子(ドーファン)との一騎打ちはフィクション

映画で描かれるヘンリーとフランス王太子ドーファンの一騎打ちは、史実には存在しません。

なぜならアジャンクールの戦いに、実際のドーファンは参加していなかったからです。

このドーファンは、後のシャルル7世の兄ルイだと考えられますが、アジャンクールの戦いの2か月後に病気で亡くなっています。

戦場での決着は、イギリスとフランスの対立をよりドラマチックにするために創作されたシーンだと言っていいでしょう。


フォルスタッフは架空の人物

主人公ヘンリーの親友フォルスタッフは、史実には存在しません。

彼はウィリアム・シェイクスピアの戯曲に登場する創作キャラクターだからです。

『ヘンリー四世』『ヘンリー五世』などのシェイクスピア劇で人気の高いキャラであり、本作ではその設定を引用しつつ、新たなドラマを作り出しています。


作品の評価・口コミ

レビューサイト
評価
総合評価72.90
国内
レビュー
サイト
国内総合評価3.60
Filmarks3.6
Yahoo!映画3.7
映画.com3.5
海外
レビュー
サイト
海外総合評価73.80
IMDb7.3
Metacritic
METASCORE
62
RottenTomatoes
TOMATOMETER
7.8
RottenTomatoes
TOMATOMETER
71
RottenTomatoes
Audience Score
85

どのサイトでも比較的高評価を得られているのが分かります。

全体的に演技、映像美、歴史的な描写において高い評価を受けており、特にティモシー・シャラメの演技と戦闘シーンのリアリズムが観客から支持されています。

一方で、物語のテンポや深みに関しては賛否が分かれる部分もあるようです。

映画評論家のコメントには次のようなものがあります。

ミショー監督は、雰囲気のある映像と、観客を魅了する演技の数々によって、ゆっくりと展開しながらも終始引き込まれる作品に仕上げている。特に、共感を呼ぶ主人公を意外にも堂々と演じたシャラメと、ジョエル・エドガートン、ショーン・ハリス、リリー=ローズ・デップといった素晴らしい脇役たちが、この物語に見事に調和している。

デビッド・ヌセイル氏 (Reel Film Reviews)


監督・脚本・キャスト

監督:デヴィッド・ミショッドは「現代のリアリズム派」

デヴィッド・ミショッド監督は、リアルで硬派な社会派ドラマを得意とする映像作家です。

現実的な人間ドラマと緊張感のある世界観を描くことに定評があり、『キング』でもそのスタイルが色濃く反映されています。

彼の過去の作品を振り返ると、クライムサスペンス『アニマル・キングダム』や戦争映画『ウォー・マシーン: 戦争は終わらせない』など、人間の内面の葛藤や社会の暗部を描いた作品が多いことがわかります。

『キング』においても、史劇というジャンルでありながら、単なる英雄譚ではなく、若き王の苦悩や戦争の生々しい現実を容赦なく描き出しています。

彼の独特な視点と演出によって、歴史上の人物や出来事が現代にも通じる普遍的なドラマとして再構築されています。


主演:ティモテ・シャラメは「若き王のリアル」を体現

主演のティモテ・シャラメは、繊細さと強さを併せ持つヘンリー5世像を見事に演じきっています。

少年のような外見から、次第に王としての重みを身につけていく変化が自然で、観る者に強い印象を残します。

君の名前で僕を呼んで』や『DUNE/デューン』シリーズなど、内面を丁寧に描く演技に定評のあるシャラメ。

『キング』では特に「沈黙」や「目線」での演技が光り、静かに葛藤する姿がリアルに描かれています。


脚本&出演:ジョエル・エドガートンの多才ぶり

脚本を手がけたジョエル・エドガートンは、俳優としても作品に出演している多才な人物です。

ヘンリーの側近であるフォルスタッフ役を演じながら、物語の構成にも深く関わっています。

彼の演じるフォルスタッフは、単なる道化ではなく、ハルの過去を象徴する複雑なキャラクターとして描かれています。

二人の間の友情や葛藤は、ハルの成長にとって重要な要素であり、エドガートンの脚本と演技が見事に融合しています。


ロバート・パティンソンは異彩を放つ宿敵

ドーファン役のロバート・パティンソンは、異質な存在感で物語に強いアクセントを加えています。

彼の演じるフランス王太子は、誇張されたクセのあるキャラクターで、ある意味「狂言回し」のような立ち位置だからです。

パティンソンは『ハリー・ポッター』や『トワイライト』で人気を博しつつ、近年は『THE BATMAN-ザ・バットマン-』でバットマン役にも挑戦。

監督は彼に自由な解釈を任せたと語っており、あの特徴的なフランス訛りの英語や表情も、彼の創作によるものです。


リリー=ローズ・デップが締めくくる静かな真実

物語の最後を締めくくるフランス王女役を演じたのが、リリー=ローズ・デップです。

彼女の穏やかで理知的な演技が、映画全体のメッセージを静かに伝えるラストシーンにふさわしいからです。

ジョニー・デップの娘でありながら、モデル・女優として実力を磨いてきた彼女。

言葉数は少ないものの、彼女の一言が物語の真相を示す重要なカギとなっています。


まとめ

  • 若きヘンリー5世が即位し、苦悩と成長を経てフランス遠征へ向かう歴史ドラマ『キング』は重厚な人間劇が魅力
  • 舞台は15世紀の百年戦争期、実在したアジャンクールの戦いがクライマックスとして描かれている
  • シェイクスピア劇へのオマージュや、泥まみれの戦場表現など、歴史のリアルと象徴表現が巧みに交差する
  • 主演ティモテ・シャラメの繊細な演技と、ロバート・パティンソンのクセ強キャラの対比が物語を引き立てる
  • 歴史や人間の本質に触れながら、現代にも通じる「権力と真実」のテーマを静かに問いかけてくる一作

歴史って難しそう…と思っていた人も、『キング』のような作品を通して触れてみると、意外と身近で面白いことに気づけるはずです。

まずは気になった歴史作品をひとつ観てみるところから始めてみませんか?

物語を通して得た知識や視点は、ニュースや日常会話、さらには将来の選択にもきっと役立ってくれるはずです。

教養を深める第一歩として、映画の世界から歴史の扉を開いてみましょう!

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